鹿児島地方裁判所鹿屋支部 昭和47年(ワ)33号 判決 1973年12月03日
原告 国
訴訟代理人 吉田和夫 外三名
被告 坪水徳三
主文
一 被告は原告のため別紙物件目録<省略>記載の各土地につき所有権移転登記手続をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
(原告の申立及びその事実上の陳述)
原告代理人は主文同旨の判決を求め、被告の時効の抗弁を争つたほか請求原因として次のとおり述べた。
別紙物件目録<省略>記載の各土地(以下「本件土地」という)はもと被告の所有であつたが、遅くとも昭和一九年四月一二日までに原告(当時所官庁は海軍省であつたが現在は大蔵省)が被告からこれを軍事施設物敷地として代金一二八六円一五銭で買受けこれが所有権を取得したものであるが、その登記手続が未了であるため本訴に及ぶ。(被告の申立及びその事実上の棟述)
被告代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、本件土地の現所有名義人が被告であることを認めるその余の請求原因事実を争う、本件土地は数十年来被告がその所有として管理してきているもので固定資産税も被告において納付しており原告の主張は失当であると答弁し、抗弁として、
かりに原告主張のとおり戦時中一時これが原告の所有に帰した時代があつたとしても、本件土地は昭和二〇年八月一五日の終戦により実質的に公用廃止となり原告の手を離れ、以後被告において所有の意思を以て平隠公然にこれを占有してきたものであり、かつ占有開始時において被告は善意無過失であつたから一〇年後の昭和三〇年八月一五日には時効によりこれが所有権を取得し、かりに悪意有過失であつたとしても二〇年後の昭和西〇年八月一五日には被告の所有に帰したものであるから原告の主張は失当である。
<証拠省略>
理由
一 <証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば被告は昭和一八年頃鹿屋市西原町字神屋敷一一六九〇番の六畑二畝一三歩を海軍省(国)に売渡し、昭和一九年四月一〇日これが所有権移転登記を経由していることが認められるが、信用しない被告本人尋問の結果を除き特段の反証のない本件においては、右登記は適法になされ、かつそうであればそのための関係書類も真正に作成されたものと推定できるところ、いずれも被告作成名義であるこのときの土地売渡証<証拠省略>及び代金領収書<証拠省略>の被告各下の印影と<証拠省略>(本件土地の代金領収書)の被告名下の印影とは同一であると思われること、そしてこのことと証人坪水徳二、同上原隆之の各証言とを綜合すれば右<証拠省略>の被告名下の印影は被告の印章によるものであることが認められるから<証拠省略>は全部真正に成立したものと推認できる。この<証拠省略>及び弁論の全趣旨によれば、原告主張の売買契約がなされたことを認めることができ、これに反する証人坪水徳二の証言及び被告本人尋問の結果は信用できず、他にこの認定を左右するに足る証拠はない。
二 被告の時効取得の主張について
一般に売主は売買契約後引渡(又は所有権移転登記)までの間目的物を善良なる管理者の注意を以て保管する義務があり(民法第四〇〇条)、引渡までの間の売主の目的物に対する占有はいわば買主のための占有でありこれが占有は権限の性質上自主占有とは解されないから、かりに被告においてその主張のとおり本件土地を占有してきた(証人斉野一雄、同坪水徳二の各証言により認められる、被告が斉野蔵吉等に小作させ占有してきた部分即ち現在斉野一雄の家屋が所在するあたりの土地が本件土地の一部であるか否か今一つ明確でない。)としても、これを時効取得するに由なく、被告のこの点の主張は失当であるから採用の限りでない。
三 以上からすると、本件土地は原告が売買によりその所有権を取得したもので現在原告の所有であるというべきである、ところで、被告は本件土地につき固定資産税を逐年納付してきた云々の主張をしているが、地方税法によれば固定資産税は土地については土地登記簿に所有者として登記されている者(本件土地の現所有名義人が被告であることは当事者間に争いがない。)に賦課されるものであり、同人が真実所有者であると否とにかかわりなく同人がその納税義務を負うことになつているのであるから、かりに被告において今日まで引続き本件土地の固定資産税を負担してきた事実があるとしても、この故に本件土地の所有者が被告であることを既定の事実として認めなければならないものでもないからこのことは少しも前記認定の妨げとはならない。
四 以上のとおりで原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松井賢徳)
物件目録<省略>